離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「それは、良かったです」
脇に置いたバッグに手を伸ばし、さっき戻した離婚届を取り出す。
レストランのスタッフがいつ現れるかわからないため、折りたたんだ状態のままペンと一緒にすっとテーブルの上で押し出した。
なんとなく、達樹さんの表情は窺えない。
「サインを……お願いします」
私だって、こんな重苦しい話を何度も切り出したくはない。
だからさっき手早く済ませてしまいたかったのに、こんな改まった形となると余計に暗いし重い。
出した紙が引き取られていくのが視界に入り、やっと達樹さんの顔に視線を移す。
テーブルの上に落とされていた彼の目線が私の顔に向くと、心臓が驚いたように跳ねた。
「これを用意してサインをするまでに追い詰めてしまったことは、申し訳ないと思ってる。だから、今ここで望み通りサインはする」
そう言うと、達樹さんは書類を広げ、左側の自分の欄にさらさらとサインを始めた。
こんな微妙すぎるタイミングで黒服のスタッフがやってきて、グラスに注文したワインを注いでいく。
私のほうがスタッフの目を気にして落ち着かなくなっているのに、達樹さんのほうは何も気にしない様子で隠しもせず記入を続けていた。
書き終えると、紙を元通りに折りたたみ、私へペンだけを返す。
離婚届を返してくれないことを不思議に思って達樹さんをじっと見つめると、彼はその視線を受けて意味深に口角を引き上げた。