離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


「覚えてます。それが、私の願いでしたから」

「〝でした〟か。もう過去形にするんだな」

「だって! そうさせたのはあなたが──」

「あの瞬間、俺はお前に落ちたんだ。それなのに、そんな簡単に離婚すると言われても納得はできない」


 私に、落ちた……?

 またも信じられない言葉が出てきて黙り込む。


「本当は、向こうに連れて行こうかとも考えた。でも、まだお互いによく知りもしない中で簡単に帰れない海外の慣れない地に連れていくのは、お前にとって不安が大きいだろうと思ったんだ」


 え……?

それじゃあ、私のために……? 


「それに、連れていってお前にどっぷりになったら、俺が使い物にならなくなりそうだからな。総合的に考えて、今回の選択は間違ってはいなかったと思ってる」


 達樹さんはそこまでを区切りにするように微笑を浮かべると、「乾杯するか」と待ち惚けしているワイングラスを手に取った。

 グラスの中の細かな発砲を見つめながら手を伸ばし、差し伸べられたグラスに重ね合わせる。

 カチンと薄いガラスがぶつかる高い音が響いた。

 知らぬ間に相当緊張していたのかもしれない。

 口の中が乾いたような感覚がして、潤すためにスパークリングワインを少し多めに口に含んだ。

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