離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


「海だ……久しぶりだな」


 最後に海を見たのはいつだろう?

 もう遥か昔のことという記憶しかない。


「砂浜を歩くのは俺もいつぶりかわからないな」

「そうなんですか?」

「たぶん、学生の時が最後の記憶」


 私の手を引いている達樹さんは、舗装された道から砂浜に入っていくとよりしっかりと私の手を握ってくれる。

 五センチ程度と低いといえ、私がヒールのパンプスを履いているからだろう。

 海にくるならぺたんこな靴のほうが良かったと思いながら、そういえばあのマンションには未だほとんど私物を持ち込んでいないと気付く。

 さっきだって、出かけると言われて着替えるのにクローゼットを開けたら、一年前に少し運び込んでいた衣類が数点あるだけだった。

 幸い、今年着ても大丈夫そうなシンプルな膝丈ワンピースがあったから、それに着替えてきたけれど、早々に実家から必要なものを持ち出さないといけない。


「さっきから気になってるんだけど、なんか、手に変な力入ってない?」

「へっ? そ、そうですか?」

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