狂おしいほどに君を愛している

28.アリーヤの謝罪

「ノ」

「あ、あのっ」

急に大きな声で呼びかけられてびっくりした。

さっきのキス、見られてないよね。

一瞬だったし。

声をかけられた時、ノエルが舌打ちをした。そっちにも驚いて彼を見るとにっこりと微笑まれた。さっきの舌打ちは気のせいだろう。

「さ、さっきは申し訳ありませんでした」

そう言って深々と頭を下げたのはさっき私に水をかけてきた女子生徒だ。

一緒にレイクロードもいる。彼が連れて来てくれたようだ。

「わ、私は、アリーヤ・オズウェルと言います。オズウェル男爵家の娘です」

知っているわ。

彼女は前の人生でもヴィーシャの取り巻きというかパシリだった。

「制服は私が責任もってクリーニングします」

そう言って私が紙袋に入れている制服を取ろうとアリーヤが手を伸ばすけれど私から制服を受け取る前にノエルに阻止された。

「必要ないよ」

「ひっ」

「?」

「ノエル、お前なぁ」

アリーヤはなぜか青ざめ、ガタガタ震えている。レイクロードは呆れたようにノエルを窘める。いったいどうしたんだろう。

「わざわざそこまでする必要はないわ。濡れただけだし、乾かせば問題はないわ」

「スカーレット、俺がクリーニングに出してあげるよ」

「えっ、いや、私の話聞いてた」

ノエルは私の手にある紙袋を取る。

「皴になるし、水だってシミになることがあるんだよ。乾かすだけじゃダメだよ」

「それなら我が家で」

「いいから、いいから」

ノエルは完全に自分の家で私の制服をクリーニングすることを決めたらしい。

物腰柔らかそうに見えてかなり強引で頑固よね。

彼がそこまで言うのならこちらから折れてお任せした方がいいかな。

「分かったわ。じゃあ、お願い」

こんな濡れた制服を持って帰って面倒な人に見つかって説明するのも面倒だし、嫌がらせにあったなんて知られたくもないからちょうど良いかも。

「それじゃあ、教室に行こうか。それともサボる?」

「授業に出るに決まってるでしょう」

「えぇ。このままどこかでさぼった方が楽しいのね」

そう言いながらノエルは私の手を握って教室に向かって歩き出した。

呆然と突っ立たままのアリーヤをレイクロードが促して彼らも一緒に教室へ向かうことになった。

気のせいだろうか。

ノエルはアリーヤを無視している気がする。

「ねぇ、アリーヤのこと嫌いなの?」

「君に危害を加える人も、君に近づこうとする人もみんな嫌いだよ」

「どうしてそこまで」

ついこの間会ったばかりの人なのにどうして彼はそこまで私に執着するのだろう。

「うーん。内緒。あっ、予鈴鳴っちゃったね。急がないと」

はぐらかされた。
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