狂おしいほどに君を愛している

27.冷たいキス

何、浮かれてたんだろう。

これが本来の私の立ち位置じゃないか。

みんなの私を見る目は嫌悪、侮蔑、異物に対する警戒

綺麗な世界だけを見せられて育つ貴族の令嬢や子息にとって私は薄汚い血の入った妾腹

いつもそうだった。どこに行ってもそうだった。

ああ、思い出した。

だから婚約者ができた時は嬉しかったんだ。私も愛されると思ったから。

私も愛されてみたかったから。

ぱさりと頭の上にタオルが乗せられ、方には上着をかけられた。

随分と酔狂なことをする人がいるなと思って視線を向けるとそこにはノエルとレイクロードがいた。

「大丈夫?」

「‥…っ」

大丈夫と言おうと思った。

けれどノエルの目があまりにも優しくて涙が出そうになった。

見られたくなくて私は隠すように下を向いた。

「レディーに水をかけるなんて酷いことするな」

レイクロードの言葉に私に水をかけたことはびくりと肩を震わせる。周囲の人間は自分たちは関係ないとばかりに素知らぬ顔をする。

「びしょ濡れのレディーを笑っておいて素知らぬ顔をするあんたらも大概だけどね」

ぎくりとクラスメイトが肩を震わせる。

レイクロードはクラスメイトを嘲笑し、ノエルはとても冷たい視線を向けていた。

私のせいで二人がクラスから浮いてしまう。私を庇ったせいで。二人とも優しい人なのに。

「あ、あの、気にしないで。私は」

「スカーレット」

「は、はいっ」

ノエルは天使のような笑みを浮かべているけど瞳の奥がどんよりとどす黒い感情が蠢ているみたいだった。

どうしたんだろう。

「君を嘲笑した奴らのことなんか庇う必要はないよ。もちろん、そんな奴らと仲良くしたいとも思わない。それじゃあ、行こうか」

「どこに?」

「保健室。着替えないと風邪ひいちゃうよ」

「あ、うん」

ノエルは私の手を引いて歩き出した。

どうしよう。ドキドキが止まらない。



着替えは予備の制服があるらしく、先生から借りた。

少し体が冷えてしまった。ちょっと、寒いかも。

「ノエル、上着ありがとう」

「着てなよ。寒いんでしょう」

どうして分かったんだろう。

「私、そんなに分かりやすかった?」

「ううん。スカーレットのことで俺が分からないことなんてないよ」

「何それ。私たち初めて会ったばかりじゃない」

「そうだね」

「?」

ノエルがとても寂しそうに見えた。すぐにいつもの彼に戻ったけど、出会ったばかりの私が踏み込んでいいことには思えなくて聞けなかった。

「だいぶ冷えちゃったね」

ノエルが心配そうに触れてきた頬は水を浴びたせいで冷たくなっていた。

「そうね。でも、ノエルが貸してくれた上着温かいから大丈夫よ」

「そう。スカーレット、もし君に不快な感情を抱かせる人がいたら、何か嫌なことがあったら教えてね。約束だよ」

ノエルはそう言って触れるだけのキスをした。とても冷たい唇だった。まるで死人のよう。
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