狂おしいほどに君を愛している

43.ノエルの正体

「外には出て良いよ。でも邸に帰さない。ここから学校に通おうね」

にっこりと笑って無茶ぶりするノエル

そんなこと公爵家が許すわけがない。

私に対してどんな感情を抱こうと、オルガの心臓を持っている私を放っておけないはずだ。

「大丈夫だよ」

私の心が読めるのかノエルが安心させるように笑いながら補足する。

「王家の許可は取ってあるから公爵家には王家から直接話が言っているはずだよ」

不安でしかない。

どうして王族と話がついているのだろう。

しかも家のことで口出しさせるってことは王子たちではなく王に直接話が言っているということだ。

「そもそもさ。アイツらに君のことで口出しする権利ないよね。幾ら保護者だからって。ああ、でもそれも気に入らないんだよね」

ノエルは私の手をにぎにぎと握りながら言う。

「何で、あんな奴らが君の保護者なんだろうね。本当に気に入らない。スカーレットもそう思うでしょう。いっそのこと没落させちゃおうか」

にっこりとさわやかな笑顔でとんでもないことを言う。

恐ろしいのはそれが冗談ではないこと。

そして、どのような手段を用いるかは分からないけれど彼にはそれが不可能ではないということ。

まだ会って間もない関係だ。

お互いに知らないことも多いいだろう(‥‥いや、彼の場合は私のことで知らないことは既にないような気もするけど)。

それでも彼の言葉が本気か冗談かぐらいは判別ができる。

そして彼には良心が欠如していることも短い期間ではあったが知るには十分すぎるぐらい彼の以上行動を間近で見てきた。

「スカーレットだって、彼らのことが好きじゃないでしょう。君を傷つけるだけの存在もん。必要ないよね」

私が反対するとは微塵も思っていない。

言っていることは恐ろしいのに、彼が私に向けるのはどこまでも純粋な好意。

だからこそ余計に彼は怖い人なのかもしれない。

「没落させる必要ないわ」

「どうして?君を傷つけた人間たちだよ」

「彼らが私を気に入らないと思うのは当然よ。私と母は幸せだったはずの家族関係を壊してしまったんだから」

「お互い様だって?だから何もしなくても良いって言うんだ。君は相変わらず優しいね」

「でもね」とノエルは私の耳元で囁く。

「度を越せば公爵家でもただじゃおかない」

王族の次に地位のある公爵家を簡単に滅ぼすというノエル。

「ノエル、あなたって何者なの?」

きょとんした後、ノエルはとても嬉しそうに笑った。

「俺に興味があるの?嬉しいな。俺はね、グウェンベルン王国第二王子」

「‥‥‥えっ」

グウェンベルン王国って、海を挟んだ国よね。

大国だけど、常に霧に覆われているし周囲の海流は魔の海と呼ばれぐらい危険で謎の多い国でもある。

ただ、何代か前の王妃がグウェンベルン王国の出身で、その関係でルシフェルとは多少の交易がある。

グウェンベルン王国は技術の高い職人が多く、ルシフェルはグウェンベルン王国との関係をより強固にして自分たちにとって条件のいい交易をしようと考えていた。

巻き戻し前の人生では確かにグウェンベルン王国の第二王子がルシフェルに留学予定だった。

ノエルが本当にグウェンベルン王国の第二王子で、今の時点で留学をしているということは私が死んだ時には既に国に入っていたことになる。

でも、そんな話は聞いたことがない。

他国の王族が留学していたのなら話題になっているはず。

「王族ってだけで色目を使われるのは好きじゃないからね。内密にしてもらっているんだ。俺が留学していることは一部の高官しか知らない」

「そう、なんだ」

巻き戻し前もそうならこれで少しは繋がった。

やっぱり縁があったんだ。でも何で覚えてないんだろう。

「スカーレット、王様が君に話があるんだって」

「陛下が?私に?」

「うん。本当はすごく嫌なんだけどね。王様がどうしてもって。不安がらなくても大丈夫だよ。俺も一緒に行くから」

「内容は聞いているの?」

「まぁ、ある程度は。詳しくは王様に直接聞いた方が良いよ」

「分かったわ」

オルガの心臓を持っている私には血の誓約がある。

それがある限り、私は本当の意味で王族には逆らえない。血の誓約を何とか無効にする方法を探さないと。

三人の王子とは巻き戻し前に一度は婚約している。その結果、私は死んだ。

王家とは極力、距離を置きたいけど血の誓約がある限り私は自由にはなれない。
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