狂おしいほどに君を愛している

44.避けられない義務

「エリザベート・バートリが黒魔術を使用した?」

「ああ」

私は今、ノエルと一緒に王宮に来ている。

「?」

何だろう。

「エリザベート・バートリが黒魔術で何かを召喚したとのことですが、失敗した可能性はないのでしょうか?」

黒魔術の成功率は限りなく低い。

「ゼロとは言えないが限りなく低い」

巻き戻し前の人生でエリザベート・バートリが黒魔術を使用したという記憶はない。

彼女に関して完全に巻き戻し前とは異なっている。

私の記憶は何の役にも立たないだろう。

先入観を捨てて冷静に状況を把握して動かなければ今世は化け物に殺される。

もし、そうなったら神様はよほど私のことが嫌いらしい。

それにしても。

陛下を観察する。

「?」

何なのだろう。さっきから。

ノエルの方を見てみると彼は目が合うと嬉しそうに笑うだけ。

「何を召喚したのか判明しているのですか?」

「捜索中だ。指揮はエドウィンがとっている。奴と合流してオルガの心臓を持つ者としての義務を果たせ」

「御意」

オルガの心臓を持つ者の義務

国の為にその身を捧げること。場合によっては自らの命を燃やし、この国と民の為に死ぬのだ。

拒否権はない。

血の誓約がある限り。

何とかして破棄できないだろうか。

今までは当然と受け入れていたけど折角だ。何とかして破棄できる方法を探してみよう。

それにしてもさっきから気になっているんだけど、陛下の様子がおかしい。

怯えている?

ノエルに対して。

まさか陛下を脅したとかしてないよね。とは、思っていても怖くて聞けない。



◇◇◇



「エドウィン殿下に会いに行くの?」

謁見室を退室した後、ノエルは少しだけ不満顔で私について来る。

「持っている情報を教えてもらわないといけないし、別行動をする理由もないもの」

とは言え、極力近づきたくはないわね。

だけど正体不明の化け物を相手にするには戦力がいる。

さっさと片付けてさっさとおさらばするのが一番ね。

「ノエルはどうするの?」

「一人で男と会わせるわけないじゃん。それに俺たちの婚約の件もあるしね。そっちも心配しなくていいからね。公爵家には俺から話を通しておくし」

ノエルはとにかく私を公爵家に関わらせたくないようだ。でも、だからって公爵家の人達に会わずに婚約ってできるのだろうか。

それにノエルは他国の王族だ。

ノエルが陛下に何をしたのかは分からないけどオルガの心臓を持つ者を他国に出すわけがない。前例もない。

「スカーレット、また一人でグルグル考え込んでいるの?考えすぎるのはスカーレットの悪い癖だよ」

そうだろうか?

「全部、俺に任せてよ」

本当にそれでいいんだろうか?

それは逃げじゃないのだろうか。

嫌なこと、全部ノエルに押し付けて見ないふり、知らないふりをしているんじゃないだろうか。

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