弔いの鐘をきけ
戦争の責任を取るかのように家族を巻き込み火を放った父。父を信じつづけてともに炎に焼かれた母。何も知らなかった無垢な弟。
敗戦処理に追われていた軍部は父の死を事故としてあっさり処理した。自殺だとわかっていても誰も口にしなかった。だから家族は同じ場所に葬られている。
火傷を負いながらも生き延びたニコールは後見人の叔父夫婦のもとで大人になるまで面倒を見てもらい、その後、独り立ちし、彼とともに会社を設立したのだ。
活字に苛まれ、活字を渇望し、活字に焦がれたニコールの、安住の地。
それがタチアナ書房。
初代社長はテッド・タチアナ・バーソロミュー。
ニコールの今は亡き最愛のパートナーである。
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余命三カ月ですね、と医師に宣告されたときのことは実はあまりよく覚えていない。むしろ戦後五十年よく生き延びたと自分で自分を褒めてあげたいくらいだとニコールは密かに思っている。あの頃は長生きとか延命治療とかそういった語彙が存在していることすら知らなかったのだから。