弔いの鐘をきけ
病室にはリーガルリリィの白い花が飾られている。清涼な香りを好む目の前の男らしい選択だなと、ニコールは場違いなことを思いながら、言葉を濁すミトを見つめる。
テッドとニコールが立ち上げた会社はすこしずつ人員を増やしていった。戦後の混乱期は元傭兵や密偵の編集者もいたものだ。目の前のミトもまた、戦後に亡命してこの地に落ちついた一族の子孫だ。戦後間もなく両親を亡くした彼をテッドとニコールは息子が一人暮らしをはじめたばかりで淋しかったこともあり、自分たちの晩年の子どものように育てた経緯がある。ニコールを母のように慕う彼がジェシカのことで意見するなど、珍しい。
「わたしが死んでからも会社に出入りするのに問題はないでしょう? それとも何か?」
バサリ、とひときわおおきな音がライティングテーブルに響く。ミトが茶色の鞄から、紙の束を取り出し、呟く。
「――言っただろ。読んでもらいたい原稿があるって」
ニコールは目を丸くして、ミトの言葉を反芻させる。もうすぐ死ぬのにゆっくり読め、なんて矛盾した言葉を言っていた彼。ジェシカが「こっちの話」と一蹴していたけれど。
「これって……ジェシカが?」