弔いの鐘をきけ

「あいつは完成するまで見せるつもりはなかったみたいだけど……それじゃあ読んでもらえないかもしれねぇだろ?」

 だから黙って持ち出した、とミトは小声で告白する。
 けれどニコールにその声は届かない。
 彼女は既に、目の前に繰り広げられる活字の森へ、入り込んでしまったから。



   * * *


 本にするには拙すぎる物語。けれど一生懸命綴られた物語。活字の森に入ったニコールは、どうすればこの芽吹いた物語を花開かすことができるだろうと思いながら、文字を追いかけていく。
 活字がないと生きていけないと自覚したのはいつからだろう。いまでは職業病だと割り切れるが、この仕事に携わることがなかったとしても、こうして老眼鏡片手に活字とにらめっこをしているのだろうなとニコールは痛感する。
 ジェシカは物語を完成させて、ニコールに見せたかったのだろう。けれど、物語が完成するそのときに、ニコールが冷たい土の下にいたら、それは叶わない。
 帰り際のミトの言葉がニコールを惑わせる。

「ジェシカは、ニコールに自分が書いた原稿を編集してもらいたいんだ」

 ――だから、死ぬな。
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