弔いの鐘をきけ
いつ死んでも構わないと思っていたニコールに、ミトのヒトコトは、氷塊のように冷たく、重くのしかかる。
* * *
「ニコ?」
薄暗い病室に、少女の声が響く。いつの間に眠ってしまったのだろう。紙の束に突っ伏していたことに気づき、ニコールは首をあげて周囲を見回す。
ベッドサイドのランプはつけたままだった。
ニコールの目の前にある白い紙の束には赤ペンでチェックした形跡がある。そういえば自分で書き加えたのだなと思いだし、苦笑する。
ジェシカが書いた物語は、まだ見ぬ未来への希望に満ち溢れたものだった。本という商品にして売り出すには瑕だらけだが、彼女が見る夢がそのまま文字になって躍りだしているかのようで、ニコールには眩しすぎた。
生き生きとした若木のように素直なジェシカにこの赤い注釈だらけの原稿を渡すのは酷なことかもしれない。けれど、いまは健やかに自分の思い描く通りに暮らせていても、何らかの原因で挫折したり、苦悩したりすることがそう遠くないうちに起こりえるのだから、厳しい一面も知らせなくてはならない。