弔いの鐘をきけ
「いつ死んでもおかしくない、って言ったでしょう? ジェシカ」
「でも」
「ミトから貴女の原稿を預かったんだけど、ごめんなさいね」
その言葉を引き金に、ジェシカの涙がニコールの頬へぽろりと零れ落ちる。
「あ、あんな駄作っ、ニコに読ませたら笑われるって、思ったから……」
「笑うわけ、ないじゃない」
ジェシカが一生懸命書き綴った物語を誰が笑うというのだろう。ニコールはか細い声でジェシカに囁く。
「上手になりたいのなら、たくさん書けばいいのよ」
「でも、そのときにはもうニコがいないよ!」
「そうね、冷たい土の下で寝ているわ」
「……ニコには言ってなかったよね。あたしの夢。ミト話しちゃった?」
「いいえ。彼は未完の原稿をわたしに預けただけよ。ねぇ、今わの際に教えてくれない?」
涙を拭って、ジェシカはニコールの耳元へ、夢を紡ぐ。
「あたし、文字を書いたり読んだりできればそれでいいと思って大学では文学部に入ったけど……いまはね、ニコみたいな編集者を唸らせる作家になりたいって、強く思うようになったんだ」
ジェシカは恥ずかしそうに、けれどもしっかりとその夢を紡ぐ。