弔いの鐘をきけ

 愛しい自慢の孫娘は、敏腕編集者の祖母の影響を、しっかりと受けているようだ。

「そう……」

 ニコールは頷き、静かに笑いかける。これが最期のアドバイスだ。

「いい? 現実から逃げちゃ、駄目よ」

 ジェシカはふたたび溢れ出る涙を堪えながら、感覚を受け付けないニコールの手をぎゅっと握りしめる。彼女の手が冷たいのか温かいのか、それすらわからない。それでもまだ、自分は生きて、死に臨んでいる。

「ジェシカ。戦いなさい。夢をその手で掴むために」

 ジェシカが車椅子で最後に連れて行ってくれた教会墓地。響き渡る弔いの鐘。その鐘の音は、ジェシカにとって、苦しいものになるだろう。けれどニコールはジェシカに告げる。

「わたしの弔いの鐘を、ききなさい」

 優しくも哀しい音色は、儚く笑うニコールをあの世へと(いざな)っている。
 けれどその鐘の音は、ジェシカにとって別の意味を抱くものになるだろう。

「――はい、おばあちゃま」

 ジェシカは涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、素直に祖母の言葉を受け入れた。




   * * *





「ひとは死んだら、どこへ向かうんだろうね」
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