ロミオの嘘とジュリエットの涙
 雲ひとつない空は、どこまでも青い。私はゆっくりと目の前の彼に視線を移した。

「ねぇ、私を恨んでる?」

 私たちの関係が終わりを迎えてから五年。ずっと気になっていた疑問をぶつけてみた。

「それは俺の台詞じゃないか?」

 ワックスで前髪を上げている透はあの頃とは別人だ。ただ困ったように笑う顔は今も昔も変わらない。

「にしても、このタイミングでそんな質問をされるとは」

 逆だよ。今、このタイミングだから聞いてみようと思ったの。だって……。

「透に生きていてほしかったの」

 あのとき、とっさに取った私の行動。実の母親の後を追うのが透の願いだとしても、私は許さなかった。

 透を裏切ることになっても、私の勝手な願いだとしても口移しで解毒剤を彼に飲ませ、生きる道を選ばせた。

 だって透のお母さんもきっと同じことを願っているから。

 毒を飲んで死のうとして改めて思った。錠剤を砕いたとしても幼い子どもに毒入りの水を全部飲むよう促すなんて無理だ。

 苦くて吐き出すか、飲むのを諦めるに決まっている。

 直前にお父さんに電話したのも、透だけは助かってほしかったからじゃないのかな。心中するなら他に方法はいくらでもあるはずなのに……。

 そんな話を透にしたとき彼は泣きそうになっていた。

「そう、だから俺は今ここにいるんだ」

 透を見ると彼の表情は今、頭上に広がる空のように晴れ晴れとしている。そして彼は顔をくしゃりと歪め、私のおでこに自分の額をくっつけた。

「結、本当に俺」

「ストップ!」

 言葉の先を察して、私は勢いよく透を止めた。虚を衝かれた透は目を白黒させている。

「もう謝るのはナシ。聞き飽きた。私、そんな何度言われなくてもわかっているし忘れないよ」

 早口で捲し立てると、ややあって固まっていた透が噴き出す。

「結には敵わないな」

 笑う透に内心でホッとしつつ強気な口調は崩さない。
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