心理作戦といこうか。
手渡された水色の紙袋を覗いた、刹那。
固まった私に彼の手が私の右手に優しくそれでいてさりげなくと添えられる。
「え?」

思いがけない出来事に頭はおろか、心もついていかずただ彼の真面目な表情に現実だと思い知らされる。
不意にお腹を右手で撫でる。

「一人だと不安だと思うから。
 それに式の前に知っておいた方が良いと思う。
 気になってるドレスもお腹が出始めても着れそうなタイプのデザインだったろ?」

もう一度紙袋の中身を凝視し、まさかと思った。
うん。間違いない。

「玲君、これっていつ買ったの?」

「ん?
 まあ、最近?」

彼は目を逸らし何故かこの質問の答えを濁す。
それ以上追及するのはやめにした。
今はそれどころじゃないから。

手渡されたのは妊娠検査薬。
ブルーの長方形の箱を開けるとシルバーの袋が2つと取り扱い説明書らしき紙が入っている。

「初めて…」(本物を見た。)

「初めてじゃないと困るんだけど。」

被せるように彼の言葉でかき消され、右手首を掴まれる形でリビングを移動する。

どこに行くのかは分かってる。
けど…(心の準備が出来てない。)

自分が最後にいつ生理がきたのかなんて事も考える暇さえなかった。
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