心理作戦といこうか。
祈るような気持ちでその時を待つ。
この時にやっと気が付いた。
自分が子供が欲しいと思っていた気持ちに。

「真琴?一分経ったな。真琴のタイミングで見よう。」

「うん。
 なんだか怖いから早く見たくなってきたよ。」

お願いと祈るように目を瞑る。

「いっせーので袋だから出すぞ?」

「うっうん。」

ふう。とひと息つき二人ハモるように「いっせーの」と言って検査薬とにらめっこをする。

「「わあ~!!!」」
歓声なのか絶叫にも似た言葉にならない二人の声が混じり合う。

妊娠している表示の知らせに様々な感情が湧き上がり思わず抱き締め合う。

「玲君、私、妊娠してるんだよね?」

「ああ。
 これからは一人の身体じゃないから無理は禁物だな。
 それと病院を調べて…。
 式は真琴の体調に合わせるが、ドレスは真琴の気に入った方に決めたらどうだ?
 真琴の肌と雰囲気に合っていたと思うぞ。
 お腹も空いた事だし夕食にしよう。」

彼の潤む瞳と真剣な眼差しにドキッとする。
と、自然にお腹に手を当てている自分の行動にびっくりした。
ああ。そうなんだね。
そうやって自然に親になる準備が始まっていくんだね。

「うん、そうだね。そうする。」と少ししどろもどろにながら口にすると自然と涙が伝わってきた。
緊張と不安で作ったビーフシチューの味がするかな。なんて思いつつも、それでもやはり楽しみの方が上をいくから自分がすべき事をしっかりやり遂げ赤ちゃんを迎え入れよう。そう誓うようにもう一度、ギュッと抱き締める。

「誰だって初めから親になる覚悟なんて出来てない。
 妊娠に対しての思いは人それぞれだ。
 それでも現実になることは突然だ。
 だから、不安になる。心配になる事は親になる第一歩なんだと俺は思う。
 現実になってから覚悟が生まれるんじゃないのかと思うぞ。」

「ありがとう」と伝え、彼から伝わる心臓の音に安らぎを感じた。
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