心理作戦といこうか。
アワアワしていても時間とは待ってくれないもので、待ち合わせの場所へと急ぐ。
腕時計を見るとちょうど15分前。
まだ来てないよね?と思い急いでいた足を止めゆっくり進むと、約束の場所に誰がいるのかシルエットでも分かる。
彼が来ているのに気付き、足早に彼のもとへと急ぐ。

「玲くん、お待たせして、ごめんね!」

「真琴。お疲れ。
 いや、今来たところだから大丈夫。
 お腹空いてるだろ?
 早速行こうか。」

不意に手を繋ぐ玲くんの仕草にドキッとしてしまった。

「そういえば、知らなかったけど、玲くんって去年まで海外にいたの?」

「ああ。まあ、仕事でな。
 真琴には話してなかったから。
 二年だけだったけどアメリカの大学の研究所に出向してた。」

嘘ではなかった。

「凄いね!
 玲くん、子どもの頃から研究者になりたいって言ってたの。
 私はちゃんと覚えているよ!
 もしかして、今のマンションが綺麗なのは引っ越して来たばかりだから?」

「全く。大事な事は忘れてるくせに。
 まあ、今のマンションは先週引っ越して来たところだよ。
 アメリカから帰国後は別のところに住んでいたから。
 大学の寮みたいなところ。
 二人で住むには狭いから引っ越したわけ。」

「えっと・・・。」

玲くんの発言にドキドキした。
それなのに嬉しい気持ちを言葉に出せない自分が恥ずかしいと反省していると、頭にキスが落ちてきた。

「玲くん?」

「言葉に出さなくても分かるから大丈夫だよ。」

…。
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