心理作戦といこうか。
車の快適な揺れと窓から入ってくる心地よい風に眠りを誘われ、眠ってしまっていた。
優しく声で名前を呼ばれ目を覚ます。

「真琴。着いたよ。
 起きれるか?」

「ん。
 ごめんね。寝ちゃった。
 パーキングエリアじゃなくて、目的地に着いたの?」

何でもそつなくこなす玲くんは車の運転もお手のものだった。
まるで揺りかごの様に心地よい揺れ加減だった。

「うん。良く寝てたな。
 そろそろ降りて外へ行こう。」

「うん。行こっか。
 って、此処って……ん?」

何度も瞬きをして外の風景を見てると私の良く知っている場所。

「真琴にとっては懐かしい場所だろ?
 此処は真琴の母校だろ?高校の。」

「こうこう?なんで此処に?」

なんで高校に連れて来たのか全く予想がつかない。

「此処に連れて来たのは決意表明みたいなものだ。」

「決意表明?
 玲くん、さっきから何を言ってるの?」

隣を歩く彼を見ると、とても真剣な表情をしていた。

「真琴が此処に通っていた時は俺は大学生になっていて、研究にかまけて家に帰らない生活で余り会わなくなったよな?」

「…うん。」
玲くんのお義母様からは「玲は大学の研究室に缶詰め状態で全然帰ってこない」って良く我が家に美味しいケーキを持って遊びに来てくれて、玲くんの事をそう耳にしていた。

私に知らない世界に居る玲くんをとても遠い人に感じた。

「それでも、俺は真琴のご両親と連絡を取る仲だったから高校の入学式の写真を貰った。
 その時の真琴を見た時はびっくりした。
 同時に三歳だった子どもが大人へと成長をしていく真琴に焦った。」

「うん?」

そんな前から玲くんと両親は連絡が繋がっていたとは…。
どうして今まで気が付かなかったのか…。
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