伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「ぱふぱふぅ~」

 幼い男の子はカミラの胸を小さな手で撫でながら満足そうな笑みを浮かべて顔を押しつけている。

 まあ、なんていやらしいんでしょう。

 でも、子供なんだから、むしろ当たり前なのかしら。

 母親に甘えた記憶のないエレナにとってはうらやましく思える姿でもあった。

 それにしても、なんだか納得いかないわね。

 婚約者であるわたくしよりも、こんな性格の悪い女の方がお気に入りなんて。

 そりゃあ、わたくしでは物足りないでしょうけど。

 エレナは自分の平らな胸に手を当てながら王子と呼ばれた男の子をにらみつけた。

 だいたい、こんな幼児が王子って、何よ。

 カエルよりはましだけど。

 いったいどうなってるのよ。

 何かの間違いじゃないの。

 集まってきた人々のざわめきがだんだんと大きくなる。

 カミラの取り巻きたちもわざとらしく非難の声を上げていた。

「王子様を蹴飛ばすなんて」

「なんて乱暴なんでしょう」

「本当に、信じられませんわ」

 人垣をかき分けながら衛兵たちがやってきた。

「王子様、ご無事でございましたか」

 どうやら、本当にこの子が王子らしい。

 幼児はすっかりご機嫌で、カミラの胸の中で指をくわえながらうっとりと目を閉じている。

 エレナは彼女にたずねた。

「どういうことですの。この子が王子様ですの?」

「ええ」と、カミラがクィと顎を上げながら答えた。「ルミネオン王国第五王子クラクス様ですわ。あなたの婚約者なのに、そんなこともご存じないなんて」

 第五王子?

 王子様って、将来の国王のはずよね。

 でも、それは長男一人だけで、次男以下は違うってこと?

 じゃあ、この婚姻で、わたくしの立場はどうなるというのでしょう。

 だが、状況を理解する前に、いつのまにかエレナは衛兵に両腕を捕まれていた。

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