伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
男の子を屋敷へ連れて行こうとした、そのときだった。
ガウッ、ガウワウッ!
急に闇の中からぼんやりとした光が浮かび上がる。
すぐ近くに狼のような姿をした獣が現れた。
背中が丸く体は細いが、足の爪と口から飛び出した二本の牙が鋭い。
うつろな目で二人を見つめながらよだれを垂らしてうなり続けている。
エレナは子供を後ろに隠しながら静かに立ち上がった。
ガウッ、グルゥゥゥウ!
獣はじっと視線を合わせたまま前足で地面を引っ掻いている。
後ずさりしようとすると、獣の体が跳ねそうになった。
エレナはとっさに腕を上げて獣の目をにらみつけた。
一瞬ひるんだような目を見せて獣がまた間合いを保ったまま地面を引っ掻き始めた。
男の子はエレナの右脚にしがみついてブルブルと震えている。
逃げようとしても、飛びかかられたら終わりだ。
とはいえ、いつまでもにらみ合っていても、どうにもならない。
ルクス!
助けてくださいな。
お願いです。
だが、助けは現れない。
すぐにどこからでも駆けつけるなんて言っていたくせに。
全然役に立たないではありませんか。
何が冥界の帝王ですか。
あんな妖魔に手玉に取られて、ただの無能なダメ男ではありませんか。
イカ墨ベッタリ腹黒王子と同じですわ。
エレナは少しずつ後ずさりながら獣との間合いをはかっていた。
コツンと、足に何かが当たる。
石だ。
エレナは獣をじっとにらみつけたまま、石を取り上げようとしゃがみながら手を下げた。
どうやら一つだけではないようだ。
両手で二つ三つと、一度に持てるだけつかむ。
姿勢が低くなったエレナを狙って獣が飛びかかるタイミングをはかっている。
視線をそらしたら終わりだ。
ゆっくりと立ち上がりながらエレナは獣に語りかけた。
「ここから去りなさい。さもないと石を投げますよ」
獣はグルルゥゥウと低くうなり続けている。
少しだけ声を張り上げてみる。
「去りなさい! 本当に投げますよ!」
ウウウウウ!
「本気ですよ。わたくしはこの子を守るのです。投げますよ!」
振りかぶって右腕を高く上げて投げるそぶりを見せても、獣は立ち去ろうとしない。
「行きなさい! 行くのです! でないと、本当に投げますよ!」
わたくしはおまえに乱暴なことはしたくはないのです。
そんな願いなど通じるわけもなく、獣は足を踏ん張って姿勢を低くしながら、今にも飛びかかってきそうな体勢になった。
ガウッ、ガウワウッ!
急に闇の中からぼんやりとした光が浮かび上がる。
すぐ近くに狼のような姿をした獣が現れた。
背中が丸く体は細いが、足の爪と口から飛び出した二本の牙が鋭い。
うつろな目で二人を見つめながらよだれを垂らしてうなり続けている。
エレナは子供を後ろに隠しながら静かに立ち上がった。
ガウッ、グルゥゥゥウ!
獣はじっと視線を合わせたまま前足で地面を引っ掻いている。
後ずさりしようとすると、獣の体が跳ねそうになった。
エレナはとっさに腕を上げて獣の目をにらみつけた。
一瞬ひるんだような目を見せて獣がまた間合いを保ったまま地面を引っ掻き始めた。
男の子はエレナの右脚にしがみついてブルブルと震えている。
逃げようとしても、飛びかかられたら終わりだ。
とはいえ、いつまでもにらみ合っていても、どうにもならない。
ルクス!
助けてくださいな。
お願いです。
だが、助けは現れない。
すぐにどこからでも駆けつけるなんて言っていたくせに。
全然役に立たないではありませんか。
何が冥界の帝王ですか。
あんな妖魔に手玉に取られて、ただの無能なダメ男ではありませんか。
イカ墨ベッタリ腹黒王子と同じですわ。
エレナは少しずつ後ずさりながら獣との間合いをはかっていた。
コツンと、足に何かが当たる。
石だ。
エレナは獣をじっとにらみつけたまま、石を取り上げようとしゃがみながら手を下げた。
どうやら一つだけではないようだ。
両手で二つ三つと、一度に持てるだけつかむ。
姿勢が低くなったエレナを狙って獣が飛びかかるタイミングをはかっている。
視線をそらしたら終わりだ。
ゆっくりと立ち上がりながらエレナは獣に語りかけた。
「ここから去りなさい。さもないと石を投げますよ」
獣はグルルゥゥウと低くうなり続けている。
少しだけ声を張り上げてみる。
「去りなさい! 本当に投げますよ!」
ウウウウウ!
「本気ですよ。わたくしはこの子を守るのです。投げますよ!」
振りかぶって右腕を高く上げて投げるそぶりを見せても、獣は立ち去ろうとしない。
「行きなさい! 行くのです! でないと、本当に投げますよ!」
わたくしはおまえに乱暴なことはしたくはないのです。
そんな願いなど通じるわけもなく、獣は足を踏ん張って姿勢を低くしながら、今にも飛びかかってきそうな体勢になった。