愛がなくても、生きていける
「……今支度しますから。社員食堂でいいですか?」
「えっ、あっうん!」
勢いで押した感じにはなったけど、なんとか約束をとりつけた。
それから俺と里見さんは、ふたりでオフィスビル内にある社員食堂へと向かった。
窓際のカウンター席に座り、買ってきた唐揚げ定食を置く俺の隣で、里見さんは持ってきていた弁当を広げた。
「手作り弁当?マメだねぇ」
「ただの節約です。営業部のエースさんほどお給料もいただいてないので」
ただの節約と言いながらも、赤い小さなお弁当箱にはごはんと野菜、ミニハンバーグと卵焼きが彩りよく詰められている。
「ね、卵焼き一個ちょうだい。俺のからあげ一個あげるから」
「私はいいですけど、からあげと卵焼きじゃ中村さんのほうが損ですよ」
「手作りの卵焼きと交換するなら損なんかじゃないでしょ」
里見さんから許可を得て、俺は彼女のお弁当から卵焼きを一切れもらう。
綺麗に焼かれた形のいい卵焼きをぱくりと口に含むと、ふんわりとした食感と優しい甘さが広がった。
「ん……!うまっ!」
「おだててもなにも出ませんよ」
「お世辞とかじゃないって。本当に美味いよ」
思わず自然と顔がほころぶ。
「うちの母親も甘い卵焼き派でさ、たまに無性に食べたくなって作るんだけど、俺はどうも上手くいかないんだよね」
「中村さん、料理するんですか。意外ですね」
「まぁなんでも焦がすし下手くそだから、結局諦めていつも買い弁になっちゃうけどね」
今時料理上手な男もいる中で情けない、と苦笑いをする俺に、里見さんは無言でお弁当を食べ始めた。
「毎日買い弁や外食じゃ栄養偏りますよ。今はまだ若いからいいですけど、年齢とともに見た目や体の不調に出ます」
「うっ……母親みたいなこと言わないでよ」
実家に帰るたび母親から言われる小言を思い出し、耳が痛くなる。