愛がなくても、生きていける
「……たまになら、ついでにお弁当くらい作りますけど」
けれど俺は、彼女が小さな声で言ったその言葉を聞き逃さなかった。
「え!?いいの!?里見さんの手作り弁当!?」
「といってもそんな凝ったものは作れませんよ。前日の夕飯の残り詰めてる時もあるし……」
「全然いい!やった、うれしい!」
思わず素直に喜んでしまう俺に、里見さんはつられるように小さく笑う。
一瞬だけ見せたその笑顔は、いつもの冷静な表情と違ってあたたかな柔らかい笑みだ。
……かわいい。
その表情に、また心が掴まれるのを感じた。
その日から、俺は予定が合う日は里見さんとふたりで昼食をとるようになった。
営業という仕事柄外出も多い。
けれど事前に予定を彼女に伝えておいて、俺がオフィスにいる日は社員食堂の窓際の席で待ち合わせるようにした。
週に2、3回。たった1時間程度の昼休憩。
だけど飾ることなくなにごともはっきりと言う彼女は魅力的で、俺自身も飾ることなくそのままの自分で接することができた。
「長期出張、ですか?」
里見さんとお昼を食べるようになってから2ヶ月ほどが経った、9月半ばのある日の昼休み。
曇り空を見ながら箸を片手に、里見さんは問いかける。
その言葉に俺も頷きながら、お弁当のおかずであるミートボールをひと口食べた。
「うん。札幌支社が急な人手不足でさ、とりあえず12月までの3ヶ月間手伝いに行くことになったんだ」
話題は来週からの3ヶ月間の出張の話だ。
うちの会社はここ東京本社以外に、札幌と大阪に支社がある。
それぞれ事情で人手が足りなくなった時にはフォローに入ることもあり、今回は俺にその役目が回ってきたというわけだ。