愛がなくても、生きていける
「出張は全然構わないんだけど、その間里見さんと一緒にご飯食べられないのが残念」
ため息混じりに呟くと、里見さんは眉ひとつ動かすことなく言う。
「……それはさぞかし、彼女さんが寂しがるでしょうね」
「えっ、俺彼女いないよ!?ていうか彼女いるのにこうして里見さんをランチに誘うような浮気者だと思われてた!?」
「冗談ですけど」
「里見さんの冗談分かりづらい!」
真顔で冗談なんてやめて!
嘆くようにつっこむ俺に、里見さんは「くす」と小さく笑ってみせる。
そのささやかな笑みがまたかわいくて、この胸をきゅんとときめかせた。
「そんなかわいい顔されると、俺は出張行ってるあいだに里見さんに彼氏が出来ちゃわないかが心配でならないんだけど……」
普段クールなだけに、ふとみせる優しさや笑顔に心惹かれる人は俺以外にもいるはず。そんな不安からつぶやく。
「え?私結婚してますけど」
「え!?そうなの!?」
「冗談です」
「またこの子は!からかうのやめて!」
懲りずに俺をからかって、里見さんはまつ毛を伏せながらまた小さな声で笑う。
「結婚なんてありえないですよ。私、恋人もほしいと思わないですし」
「え……そうなの?」
「『好き』だなんて言ったって、どうせ少し経てば心は離れていくから。そういう感情に振り回されるのが、嫌なんです」
里見さんは、諦めたような投げたような言い方をする。
その言葉の意味を問うように黙る俺に、彼女は静かに言葉を続けた。
「私、下に妹と弟がいる三人兄弟の長女で。実家も自営業で親が忙しかったから、いつも下の子たちの面倒を見てたんです」
そうだったんだ……と思いながらも、いつも落ち着きのある彼女の姿から、その光景は簡単に想像がついた。