愛がなくても、生きていける
「部屋、すごいおしゃれだね。モデルルームみたい」
「そうですか?」
目を向けると、窓辺にはオレンジ色の花がガラスの花瓶にさして飾られている。
淡い色の部屋の中で、たったひとつ主張するような明るいオレンジ色が印象的だ。
ふわりと室内に漂った甘い花の香りが、以前彼女から借りたハンカチの香りを思い出させた。
あの日の夜、彼女に惹かれた瞬間を思い出すと、心は一気に切なくなって。
俺は里見さんを後ろからぎゅっと抱きしめた。
「……里見さん、ごめん」
「なにが、ですか?」
「さっきのこと、元々は俺のせいだ。俺が女の子たちのことちゃんとフォローしなかったから、里見さんが八つ当たりされた。……本当に、ごめん」
あの飲み会の時、俺がちゃんと笑顔をつくっていたら、きっと里見さんはなにも言わずに済んだ。
あのあと俺がちゃんと佐々木さんにフォローをしていたら、きっと里見さんへ不満は向かなかった。
里見さんがあんな目に遭ったのも、怖い思いをしてしまったのも、全部俺のせいだ。
帰りのタクシーの中、ずっと胸の中で繰り返していた。
だけどこれを言葉にすることで里見さんに嫌われたら、恨まれたら。それが、すごく怖い。
恐怖心をこらえるように、俺は里見さんの華奢な肩を抱きしめる腕に力を込めた。
「……そうなのかも、しれないですね」
ぼそ、とつぶやかれた、彼女らしいまっすぐな言葉が痛いところに刺さる。
けれどその言葉とは裏腹に、里見さんは腕の中で体の向きを変え俺と向き合うようにして立った。
「だけど元々、彼女に対して意見をして火種を撒いたのは私ですから。そこは私の責任です。だから、中村さんは自分を責めなくていいんですよ」
「けど……」
「それに……私はそれよりも、中村さんが駆けつけてくれたことのほうが嬉しかった」
え……?
その言葉の真意を問うように彼女の目を見つめ返すと、里見さんはそっと手を伸ばし俺の頬を両手で包んだ。