愛がなくても、生きていける



それからは急いで出張準備をして、週明けからは札幌へ飛び立ち……慌ただしい日々が始まった。



慣れない土地も人も適応するのは大変で、仕事量の多さもあり、あっという間に毎日が過ぎて行った。

けれどそんな俺の背中を押してくれたのも、里見さんとの約束だった。



そしてなんとか3ヶ月の出張をやり抜き、東京に戻ってきた頃には季節はすっかり冬になっていた。



「おっ、中村久しぶり」

「お疲れさまです。本日戻りました」



迎えた12月24日。

札幌から戻った足で、そのまま会社へ来た俺に、上司は笑って声をかけた。



「札幌はどうだった?」

「皆さん優しくていいところでしたよ。寒さだけは慣れませんでしたけど」



いつも通りの他愛無い会話をしてお土産を手渡す。それだけのことが、こっちに帰ってきたのだと実感させて俺の心をそわそわとさせた。



早く、会いたいな。

里見さんの顔を思い浮かべながら、経理部用のお土産を手にオフィスへ向かう。

スーツの内ポケットには、彼女へのクリスマスプレゼントであるネックレスを忍ばせて。



里見さんには今夜、告白する時に渡そうと思ってるけど……大丈夫かな、里見さんネックレスとかするかな。『付き合っても無いのに重い』とか言われないかな。

バッサリ言い切る彼女を想像して、苦笑いがこぼれてしまう。

まぁそうだとしても、それもまた里見さんらしいからいいか。



そんなことを考えながら、経理部の部屋のドアを開けた。



「あっ、中村さん!」



そこで出迎えたのは、経理部で働く後輩の男子だった。



「札幌支社に行ってたって聞きましたよ。今日戻られたんですか?」

「うん、ついさっき。これお土産。みんなでどうぞ」

「わー、ありがとうございます」



俺は彼にお土産を手渡しながら、自然なふりで一番奥のデスクを見る。

あのデスクにいつも里見さんがいる、はず……だけれど、そこには誰もいない。

それどころか、パソコンも荷物もなにひとつ置かれておらず空席のように見える。



あ、れ……?


  
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