愛がなくても、生きていける
「ねぇあなた、お名前は?」
「え?中村と申しますが……」
「やっぱり!あなたが『中村さん』!やだ、ナイスタイミング〜!渡すものあるからちょっと待ってね!」
女性はそう言ってバタバタと家の中へ戻っていく。
い、いきなりなんだ?
なんで俺の名前知ってるんだ?それに初対面の女性が俺に渡すものって?
意味がわからないまま、言われた通りに待っていると、ほどなくして女性が戻ってきた。
その手には茶色の紙袋を持っている。
「これ、引っ越す時に里見さんが私に渡して行ったの。『中村さんって男の人が来たら、これを渡してってください』って」
手渡された紙袋の中を見ると、そこにはドライフラワーの小ぶりな花束がひとつ入っていた。
白いリボンで束ねられたオレンジの花。それはあの日、彼女の部屋の窓辺に飾られていたものと同じであることに気がついた。
なんで、花束なんて……。
すると、紙袋の中には小さなメモ用紙が一枚添えられているのが目に入る。
そのメモ用紙を手に取ると、そこには
『ごめんなさい』
とだけ、線の細い文字で書かれていた。
……それはつまり、そういうこと。
『気持ちを伝えさせてほしい』と言った俺に、彼女から残された『ごめんなさい』の言葉。
それだけで、彼女の気持ちは明白だ。
告白すらさせてくれないなんて、ひどい仕打ちだな。
嫌いでも、付き合う気がなかったとしてもいい。
けどせめて、『好き』のひと言くらい言わせてほしかった。
この気持ちを、伝えたかった。