愛がなくても、生きていける
呆然とするうちにクリスマス、年末と時間は過ぎ、年明けを迎えた。
実家に戻るような元気もなく、ひとりきりで迎えた年明けはいつもよりどこか孤独で虚しさを覚えた。
そして正月休みを終え仕事初めを迎え、いつしか彼女がいたはずの席には新入社員が座っており、何事もなかったかのように時間が過ぎていく。
「中村くん、最近元気なくない?」
1月も終わろうとしていたある日、デスクで仕事をしていると飯田さんから声をかけられた。
「そう?いつも通りだけど」
「えー?絶対元気ないって。景気づけに今夜ごはんでも行かない?」
飯田さんはそう言いながら、俺の手にそっと手を重ねる。
「中村くんが抱えてること、なんでも話してよ。全部受け止めてあげるから」
全部、受け止める?
この行き場のない、彼女への想いも?
そうだ、他の誰かと適当に過ごして彼女の記憶を塗りつぶしてしまえばいい。
どうせ彼女も、たった一晩体を重ねただけの相手。
上書きしてしまえばこんなに心が落ち込むこともない。
……そう、心の中では思うのに。
「……気遣いありがとう。でも本当に大丈夫だから」
俺は小さく笑って断ると、重ねられた彼女の手を外して仕事を再開させた。
わかってる。
里見さんとのことを、なかったことにするなんて無理だ。
だって、あんなにも心惹かれた人。
愛しさを覚え、胸を埋め尽くした人。
だからこそ、いなくなった今もこんなにも胸を締め付ける。
あとから調べたら、里見さんから残されたあの花はマリーゴールドという花だった。
花言葉は、『悲しみ』。
そのひと言がまた、彼女の離れた気持ちを知らせるようで、苦しさをこらえるようにぐっと拳を握った。
するとそこへ、部屋に入ってきた上司から声をかけられた。
「中村。お前今日スケジュール空いてる日だったよな」
「はい、特に外出も打ち合わせもないですけど」
「なら悪いんだが、この取引先に荷物届けてもらっていいか?担当が急遽他の取引先に呼ばれてな」
話しながら紙袋を手渡す上司に、俺はそれを受け取りながら頷いた。
とにかく今は、仕事に励むしかないんだよな。
静かな廊下、経理部のオフィス、社員食堂の窓際の席。
そこらじゅうに、彼女の面影を感じるたびこの胸はまた痛むけれど。