スイレン ~水恋~
他の見方なんて思い付きもしなかった。“引き”で眺めてみるとか?首を倒す?そしたらお兄じゃないものがひょっこり現れたりするの?

直近の彼氏と別れて一年半ちょっと。続いても三ヶ月平均。お一人様が物足りなかったことも寂しかったこともない。“お兄がいるから”。

今だって誰かを欲しいって気持ちはまだ土の下に埋まったまま。季節は春なのに芽も吹かない。

ぼんやり考えながら浮かんだままを口に出した。

「お兄より好きになる人なんて、その辺に落ちてる気がしないけど」

「落ちてるかもしれないって思いながら歩いてごらんー?」

唐揚げを頬張って、ジョッキを空にした秋生ちゃんがなんだか深いことを言う。

「いつの間にか気が付かないで拾ってたりすんのよ、ホンモノを」

本物ってなに?

「梓が知ってるつもりで知らないモノ・・・かな?」

肩を滑り落ちるストレートのサラ髪を艶っぽい仕草で耳にかけると、今度は意味深に笑った秋生ちゃんだった。
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