スイレン ~水恋~
あたしが生まれた千倉(ちくら)の家は、お父さんが4代目組長を務めるそこそこ老舗の極道一家だ。自慢のお兄、8つ上で長男の淳人(あつと)が跡目を継ぐから、妹のあたしは家を出て一人暮らし。彼氏が出来てもなんの気兼ねもいらない、もうすぐ24歳。でも長続きした試しがない。・・・お兄と比べると、箸にも棒にもかからないって思っちゃうのがダメなのは分かってるのよ、ほっといて。

だって!お兄より格好よくって強くて、とことん優しく甘やかしてくれる男なんてどこにもいないし!血さえ繋がってなかったら、あたしがお嫁さんになるに決まってたの!ものすごく仲良しだし!誰かが入り込む隙間なんて1ミリもなかったのに!

「だいたいお兄は、亡くなった親友の妹だかに片思いしてたんじゃなかったの?!それがお見合いしてすぐ結婚なんてありえない!!」

面積だけは広い実家の渡り廊下を、志田にズルズル引き摺って行かれながら悪態をつく。

「釣り合いも取れる相手ですし、若も頃合いです。結婚したところでお嬢が何より大事なのは変わりませんよ」

「そう思うならあたしをお嫁さんにしてくれればいいのに~っ」

「泣いても喚いても式は無くなりませんが」

一回り歳上の志田に宥められながらズルズルと引き摺られ続け。駄々っ子を押し込んだ車は容赦なく、神前式をする神社へと向かって滑り出したのだった。



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