エセ・ストラテジストは、奔走する



突然、優しい顔と穏やかな声でそんなことを言うのは狡い。

「……だからって、急だよ。」

「こっちにも事情はあんのよ。」

胸が詰まってうまく言葉が出ない私が、誤魔化すように告げたら母が溜息と共にそう言う。


「…事情…?」

「茅人君も、なかなか仕掛けてくるわよねえ。」

「………そうでしょうか。」

隣から声が聞こえてきて見向くと、ずっと話を聞いていた彼が、母の言葉に自然に返事をして微かに口角を上げていた。



「"軍資金の分、口座に送金させていただきましたのでご確認お願いします"
って急に連絡してくるんだからびっくりしたわよ。」


「…本気を、伝えなければと思って。」

「よく口座の情報残してたわね。

上京する前に茅人君に聞かれて、私も疑心暗鬼の中で教えたの思い出した。何年前の話よ。」

「ご挨拶に伺う前に、万全を期すのは当然です。」


交わされる会話に、全くついていけない人間が1人、唖然とした顔で座っている自覚はある。


「間抜けな顔。」

それに気付いた母に笑われても、上手く反応が出来ない。



「茅人、」

「うん。」

「どうして…?」

上京する時、私が母に借りたお金を茅人が返すと言ってくれたことは聞いた。


気持ちはすごく嬉しいけど、これは私が返すべきお金だとちゃんと彼に伝えて、「結婚準備用のお金も頑張るから!!」と意気込んだら、優しく笑っていたから、この話はそれで終わったのだと思っていた。



「ほんと、こんなことされちゃったらいよいよ主人も逃げられないわよね。」

「……金銭的に余裕のある人間だと示すことは、お父さんからの承諾を得る上で大切ですから。」

「主人に言ったら悔しそうな顔してた。
茅人君はそんな涼しい顔して、やっぱり策士だわ。」


クスクス笑う母に、茅人は少し気まずそうに

「一方的にお送りする形になったのは、申し訳ありませんでした。必死だったので。」

と伝えて、テーブルの下で私の右手をきゅ、と握ってきた。

この人はどうしていつも、
私の知らないところで勝手に私のために動くの。

そう非難も込めて精一杯の力で握り返したら、
茅人の口端が少し綻んだ。


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