エセ・ストラテジストは、奔走する
◽︎
「本当に日帰りでよかったの?
泊まっていけば良いのに。」
「…まあもっと東京観光したい気持ちもあったけど。お父さん、ソワソワしてるだろうしね。」
あと数分で、新幹線が到着する。
スカイツリーが見たいという母に付き合って、夜ご飯も近くのイタリアンで終えた後、「じゃ、そろそろ帰ろうかな」なんて軽く言うから拍子抜けしてしまった。
再び東京駅に戻って、ホームで同じように新幹線を待つ人々の列に並びながら、私は、茅人と上京したあの日を思い出していた。
「…お母さん。」
「ん?」
「……あの時、寂しかった…?」
「え?」
「私が、東京に行った日。」
隣の母は、東京駅の地下街で大量に購入した有名菓子店の紙袋を両手に抱えつつ瞳を丸くしてこちらを見向いた。
尋ねた声が少し、震えてしまった。
プルルルと、もうすぐにやってくる新幹線を知らせるベルが大きく鳴り響いている。
あの日、初めて会ったわけじゃなかったくせに茅人のことをイケメンだと褒めて、ろくに私と真面目な言葉も交わさなくて。
“寂しいのは私だけなのか“と、まるで子供のような幼い気持ちのままに、新幹線に乗り込んだ。
母が沢山の心配と不安と、それから彼と交わした約束を抱えて気丈に見送ってくれたことを私はずっと知らずにいた。
馬鹿娘、と呟いた母が、デパートの袋を一度地面に置いて、頬にかかっていた私の髪をそっと耳にかけてくれる。
「当たり前でしょう。
娘と離れるのが寂しくない親に会ってみたいわ。
……それにいつでも帰ってきてくれたら嬉しいに決まってんのよ。私も、お父さんも。」
「……、」
そして「あ、でもこの間みたいな駆け込みはやめてね」との言葉にふと笑みが溢れた。
「……お母さん。いつも、ありがと。」
やっと言えた。
また泣きそうになって、でもこれ以上泣き腫らしたりしたら、気を遣ってホームの下で待ってくれている茅人に心配をかけると、必死に堪える。
そんな私の言葉を聞き終えた母は、瞳を瞬く回数が増えたような気がしたけど、気のせいかもしれない。
「…千歳。
怖くても、ちゃんと相手に想いを伝えるのよ。
これから夫婦になって行くなら尚更。
ちゃんとぶつからなきゃ、だめよ。」
_あんたの言ってた“誠実“って、そういうことよ。
『私からの承諾を“答え“にするのはやめなさい。』
茅人と向き合うことから逃げるように実家に戻った時、母はそう私を叱責した。
もう二度と、逸らさないって誓う。
"____千歳。"
あの愛しい彼のことは、
私が1番近くで見つめていたい。