エセ・ストラテジストは、奔走する
恐る恐る私も、荷物を玄関先に置き去りにしてリビングへ戻ると茅人は真ん中に鎮座したローテーブルの近くに座っていた。
「騒がしくてごめん、起こしちゃったね。」
なるべくいつも通りの明るさを努めて言うと、即座に形の整った瞳に射抜かれる。
「千歳。」
「…ん?」
彼の大好きな声は、
それが本当はどんな声色だったとしても。
まるで愛しい者をそう呼ぶかのように私は、錯覚してしまえる。
ずっと、この幻想の中に居て、自分を騙していたい、いつもそう思っていた。
「流石に浮気は、もっと上手くやって。」
私は、馬鹿だから。
___幻想は、お伽噺と同じ。
最後は必ず終わりがあることを
今になって、初めて実感している。
「…何、言ってるの…?」
茅人が吐き出した言葉は、当然全く理解なんて出来ない。
聞き返す声の震えは、カーテンから既に漏れている朝の穏やかな光に全く呼応しない。
熱を失った寂しさだけを抱えていた。
「…この間から、ずっと変だって思ってた。」
「……、」
「どっか上の空で、心此処にあらずで。
スマホも隠すし、さっきもこそこそ電話して。
隠すの下手すぎ。」
私がどれだけ一心に、言葉を紡ぐ茅人だけを見つめていても、彼と視線が交わることは無い。
テーブルに視線を落として語る彼の表情も感情も、
いつも以上に上手く読み取られない。