エセ・ストラテジストは、奔走する
「__あの、ちょっと良いですか。」
「はーい。」
聞こえた声に何の気なく振り返って、かち、と体が固まった。
焦茶色の髪は、細く綺麗に透き通って見えるのに、セットしすぎていない束感もきちんとあって、すごく格好いい。
眉目秀麗な顔立ちはどこかもはや現実離れをしていて冷たく見えるくらいのポーカーフェイスで。
シンプルな黒のニットに細身のパンツを着こなして、小脇にノートパソコンを抱えた男の人がすぐ側で私を見つめていた。
……イケメンすぎて、呼吸が止まるかと思った。
間抜けな顔で見上げていたら再び、
「あの、」
と、尋ねる低い声はどこか穏やかに届いた。
「あ、すいません…!何でしょう!?」
「…あの、文藝春秋ありますか?」
「へ。」
「え。」
聞き返したら向こうも短く聞き返してきて、
何故だか謎の沈黙の時間ができた。
ブンゲイシュンジュウ!?
さっきも学生さんに「ONE PIECEの新刊ありますか」と尋ねられて、私も「わかる、今巻、神でした」と思いながら場所を教えたところだったから、知的な質問に驚いてしまった。
いや、漫画は勿論いつも最高だけれど。