エセ・ストラテジストは、奔走する
「少々お待ちください!」とレジの方へ走って、
入荷情報を調べてみる。
「…あの、すみません。まだ今月分は入ってきて無い、みたいなんです。」
「え、発売日は確か今日だった気がしたんですが。」
「雪でたまに遅れちゃうことがあって…
今回もそのせいな気がします。」
「なるほど。」
静かに頷く姿も絵になる。
理世も顔立ちは整っているけど、あれはもう性格を知ってしまっているから、こんな風に誰かを見るだけで胸がときめく感覚を知らない。
「雪国で、すみません。」
せっかく尋ねてくれたのに申し訳ないなあと思っていると、何故だかふ、と息の溢れる音が届いた。
「雪国なことまで、謝られると思わなかった。」
表情がすごく崩れるわけではない。
でも微かに瞳が緩く下がって、柔らかさを携えた表情に、どきん、と今日1番大きく心臓が跳ねた。
「調べていただいてありがとうございました」
またポーカーフェイスにすぐ戻って、そのまま離れようとする彼に、「あの!」ともはや裏返った声のまま呼び止めたこの時の自分は、後にも先にも、1番勇気を出したと思う。