エセ・ストラテジストは、奔走する



「少々お待ちください!」とレジの方へ走って、
入荷情報を調べてみる。

「…あの、すみません。まだ今月分は入ってきて無い、みたいなんです。」

「え、発売日は確か今日だった気がしたんですが。」

「雪でたまに遅れちゃうことがあって…
今回もそのせいな気がします。」

「なるほど。」


静かに頷く姿も絵になる。

理世も顔立ちは整っているけど、あれはもう性格を知ってしまっているから、こんな風に誰かを見るだけで胸がときめく感覚を知らない。


「雪国で、すみません。」

せっかく尋ねてくれたのに申し訳ないなあと思っていると、何故だかふ、と息の溢れる音が届いた。



「雪国なことまで、謝られると思わなかった。」


表情がすごく崩れるわけではない。

でも微かに瞳が緩く下がって、柔らかさを携えた表情に、どきん、と今日1番大きく心臓が跳ねた。

「調べていただいてありがとうございました」

またポーカーフェイスにすぐ戻って、そのまま離れようとする彼に、「あの!」ともはや裏返った声のまま呼び止めたこの時の自分は、後にも先にも、1番勇気を出したと思う。





< 39 / 119 >

この作品をシェア

pagetop