エセ・ストラテジストは、奔走する




「はい。」

「あの、入荷したらご連絡もできます!」

「……」

「よ、良ければ、ですが。」


謎の譲歩を付け足して終えた言葉に、最初は驚いた顔をしていた彼は、ふと微かに目尻を下げて。

「お願いします」と無表情のままに、それでもそう言ってくれた時は、凄く嬉しかった。



“工学部2年 是枝(これえだ) 茅人“

依頼書に書かれた、落ち着いた真面目な雰囲気をちゃんと投影したような整った字。

学部は私と違って理系だから、今まで見かけなかったのかな、学年は同じだ。

というか個人情報盗んでるみたいになってるけど、大丈夫かな。


悪用はしないから許してください、と何の言い訳をしているのだろうと思いながら

「…これえだ かやと…」

名前をフルネームで何度も反芻したその日から、私の恋は音もなく、この地にしんしん降る雪みたいに、誰に見つかることもなく、始まった。





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