エセ・ストラテジストは、奔走する





◻︎

「…え?」

「今月までで、大丈夫です。」


そこから数ヶ月が経った頃。毎月発刊される文藝春秋を、レジでいつものようにお会計をしているとそう伝えられて、鈍器で頭を殴られたような衝撃に、立っているのも精一杯だった。


「なんでですか・・・?」

「元々これを買ってたの、好きな作家が短期集中で小説の連載をしてたからで。
それが今月で終わるので。」


至極真っ当な理由を告げられて、首が垂れすぎてそのまま取れそうな衝動を必死に抑えて、ついでにジワジワ刺激され始めた涙腺も堪えて、お釣りをなんとか渡す。

"メールだと研究に関するものが飛び交って紛れてしまうと嫌だから"

彼はそう言って、電話での入荷のお知らせをお願いした。

携帯の番号に毎月かける役目だけはパートのお姉様方にニヤニヤされたけれど、何とかいつも死守して。

“はい“

“あの、今月も無事に入荷されました。“

“ありがとうございます。取りに伺います。“



もはや雪がそこまで酷くなくてお知らせなんか必要ない時も、お節介な電話に、律儀にそう返答をしてくれる彼への気持ちは、当然降り積もっていった。


好きな人ができたと報告してからずっと、

「そんなイケメン他が放っとくわけねえだろ早く唾つけろ」

と汚い言い方をしてくる理世に、抵抗している場合じゃなかった、と後悔ばかりがもくもく膨らむ。

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