エセ・ストラテジストは、奔走する
「富永さん。」
「………はい。」
彼に名前を呼ばれるだけで活発に拍動を始める臓があるのに、これからどうしたらいいの。
「電話。」
「はい?」
「毎月ありがとうございました。助かりました。」
「いえ、お役に立てて良かったです。」
この書籍部の固定電話から緊張で一つ一つのボタンを押すのに、時間をかけ過ぎて、もはや貴方の番号覚えてしまいました。
そう言ったらストーカーとして逮捕されるだろうか。
「…俺の番号、覚えましたか。」
「え!!!」
つい今しがた思ったことを見透かしたようにそう言われて、店内で大きな声を出してしまう。
びっくりして見上げたら、彼はどこか、瞳にあどけなさを含んだ、今までとはまた違う表情な気がして。
「あ、あの、悪用はしません。」
私は一体、何の宣言をしているのだろう。
恥ずかしくなってきて目を逸らそうとしたら、
再び富永さん、と名前を呼ばれる。
「__悪用、してくれないんですか。」
落とされた言葉にびっくりして、は、と乾き切った声だけ出して。
口を開けたまま間抜けた銅像と化した私に、彼はポーカーフェイスを初めてしっかり崩して口角を上げた。