エセ・ストラテジストは、奔走する
雪が積もった道だって、昔から慣れているから。
ぬかるんでても走るのは、そこまで下手じゃないと思う。
「……っ、」
だけど吐き出した白い息と混ざり合うように
どうしても歪んでしまう視界のせいで、
まるで火傷のように焦がれ続ける胸のせいで、
今日は、うまく走れない。
"怖かったと思うわ。まだ学生の身で、たった1人で。絶対反対されるって分かりきってるんだもの。"
荷物はほとんどなかったから、身軽なはずなのに。
「…かやと…っ、」
どうしても、足がもつれる。
"最初は、
『違和感を持ったから
本当のことを教えてください』
家まで来た茅人くんにそう言われた。"
『千歳が見てる物件の家賃は、想像以上に高い。
生活をしていくのが楽じゃ無いって千歳が分かってないとは思えないけど、そこだけは譲れないみたいに、家を探してる。何か、あるんじゃ無いのか』って。"
"……そんなの、知らない、"
"そりゃ言ってないもの。
だからこれはもう嘘つけないと思って。
お父さんに、諦めさせるために、相当厳しい物件の条件突きつけられてるって言ったの。
そしたらすぐに謝られた。"
『すみません。
お嬢さんの選択が、もしかしたら無理をしてるんじゃ無いかって俺はどこかで分かってました。
でも、一緒に東京に来てくれるって分かって、
俺は純粋に嬉しかった。
そばに居たいって、
自分の気持ちを優先して、止めなかった。』
"…だから私はあんたに軍資金を渡したのよ。
俺が必ず返します、そう言ってくれた。"
"……何で茅人が、返すの、"
"同棲できたら、家賃は折半だし、もうちょっと楽だったかもしれないけど、あの頑固なお父さんが、そんなの認めるはず無いからね。"
『苦しい生活を千歳さんにも強いるんだから、そのお金は俺が必ず働いて返します。
それが、ちゃんとご用意できる時が来たら。
___結婚のご挨拶に、伺います。』
そんなの、私、一つも知らない。
だって、上京する時の新幹線でも。
茅人も、お母さんも、
初対面みたいな顔してたじゃない。