エセ・ストラテジストは、奔走する



「千歳、ごめん。」

そして再び、切なく掠れた声で謝罪を受けた。


「浮気とか、ふざけたことも言った。」

「…それは本当にふざけてる。」

ず、と鼻を啜りながらそう言ったら「うん」と確かめるような声と共に抱き締められている腕に力がこもった。

「…でも例えば浮気されてたとしても。
俺は、千歳と離れることは多分考えられない。」

「だ、だからしないよ。」

「仕事がキツくてしんどくても、
千歳から“お疲れ“ってメッセージきてたら嬉しい。」

「…え…?」

「会える日には、ちょっと良い入浴剤でお風呂準備してくれてるのも愛しかった。」

「……、」

「寝顔も、いつも可愛い。」

「…茅人、」

「…ずっと、俺は千歳に支えられて生きてる。」



"……だから、茅人君が、千歳ちゃんから何も貰ってないわけない。
そこに気づけない人なら、逆に私は、千歳ちゃんのこと渡したくない。"
 

美都の優しい言葉が心に寄り添って。
「ほらね?」って笑ってくれている気がした。



「料理は、下手だけど。」

「それは言わなくていいよ。」


ふ、と溢すような息遣いが鼓膜を揺らして、涙がまた増える。

いつも無口な彼が、たくさん、言葉を紡いでくれている。それだけで、愛しさに心が包まれる。


「…茅人。私、就職決める時、茅人と離れたくなくて、我儘言って、たくさん、迷惑かけてることにもずっと気づかなかった馬鹿だけど。

茅人のことが、好き。
本を探してるって、
私の前に現れてくれた時から、ずっと、大好き。」


"__あの、ちょっと良いですか。"


あっという間に落ちた恋が、大切で、ずっと抱きしめていたいと、私はその気持ちだけで今まで生きてきた。

それに必死で、気持ちを言葉にすることをもう随分怠っていたような気がした。



「…千歳、あれ偶然だと思ってる?」

「え?」

「声かけたのは、"書籍部に入った可愛い女の子"が、誰にでも無防備に接客してるからだよ。」

「……」

「色んな男に本の場所聞かれてるから、これはまずいなって思って。」

「…し、知らないそんなの。」

「ちなみに、文藝春秋の連載は俺が千歳に話しかけた時の号で終わってたから。」

「え!?」

私はもっと、この人に長い間
入荷の連絡をしていたと思うけれど。


驚きばかりが増して素っ頓狂な声を出した私に、ポーカーフェイスの筈の彼が瞳を甘く細める。


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