エセ・ストラテジストは、奔走する
◽︎
「真嶋さん元気だった?」
「うん、面倒だった。」
どういう感想なの?と少し困ったように言う千歳の
笑顔は、出会った時から何も変わらない。
肩につくくらいの綺麗な黒髪が、屈託なく笑うとふわりと揺れる。
「仕事ばっかりだから。たまにはそういうのも良いね」と言って、畳み終えたタオルを洗面所に運ぼうと立ち上がった千歳の腕を掴む。
「茅人?」
この優しくて可愛い声に自分の名前を何度呼ばれたかは、もう当たり前に数え切れない。
そっと頬に指先を添わせたら、一瞬で体を硬直させて、それなのに長い睫毛に縁取られた瞳で俺を真っ直ぐ見つめてくるのも、昔から変わらない。
より近づいたら、千歳から自分と同じ匂いが香って、それがシャンプーなのか、柔軟剤なのかはよく分からないけど、その心地良さに包まれながら、軽くキスを落とす。
触れるだけのそれを一瞬離して、
おでこをくっつけ合わせたら
「…つ、疲れてないの?」
とちょっと震える声で遠慮気味に聞かれ
「大丈夫」とだけ短く返す。
そして再び唇を塞いで、少しずつ深まるそれの中で。
背中に回る手も、
腕の中でこちらに委ねて力の抜けていく身体も、
その全部が、
長く一緒に時間を重ねてきた俺たちの
“暗黙のルール“に近い。