エセ・ストラテジストは、奔走する
「……千歳。」
「…っ、ん、?」
電気のついていない、窓からの薄い月明かりだけを頼りにした空間。
狭いベッドの中で、俺が小さくそう呼べば
呼吸を既に乱した千歳は、それでも必死にこちらに視線を向ける。
「……、」
“好き、とか大事だー、とか
そういうことだろうがあ!“
やけに、真嶋の声が再生されるのは、
俺も少しは酔っているからだろうか。
「…茅人…?」
堪えるようにシーツを握りしめていた右手を離して、俺の頬へとのばされた手は、繋がった体の熱さにあまりに呼応しない、冷たさを帯びている。
その頼りなさに、
何故か言いようのない不安が心を侵食する。
存在を確かめたくて、
上体を折りつつ、より彼女に近づいたら、
「…、まって、」
と、微かな刺激にも敏感になった千歳が
言葉を必死に漏らして空気を揺らす。
“待って“は、肌を重ねている時の彼女の口癖のようなもので、それが耳に届く度に俺は嗜虐心を簡単に煽られてしまう。
「無理。」
「…っ、あ…!」
頼りない声での要求を軽く跳ね除けて、腰を強く一度だけ打ち付けたら、千歳はその拍子に必死に俺の首にぎゅうと細い腕を巻きつけてきた。
声を出すのが嫌なのか、快楽に反応するのを抵抗しているのか、いつも力一杯唇を噛んで自分で制御しようとするから、その小さい口をこじ開けるように唇を重ねる。
「…千歳。」
「……」
「睨まれても、まだやめないよ。」
「……っ、ん…、いい、よ。」
結局は真っ赤な顔でそう答えてくれる彼女の潤んだ瞳に、自分だけが映るようにちゃんと近くで見つめれば。
俺を受け止める可愛らしい声をまるごと覆うように、キスをすれば。
_____それは相手に気持ちを伝えることと
同義だと、思っていた。