エセ・ストラテジストは、奔走する
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「あらあ!今日千歳ちゃん
シフト入って無いけどどーする?!
お目当ての本、もう受け取っとく?」
「………、」
いつもと何も変わらない書籍部。
入荷の電話を受けて足を運んだら、ニヤニヤと楽しそうな笑顔の店員(よく見るおばさん)に、レジでそう伝えられる。
「ちゃんと千歳ちゃんが大事に本の在庫は確保してるから!
ちなみにあの子の次の出勤は明日午後ね。」
「………」
この職場、プライバシーの概念は無いのだろうか。
彼女のシフトを俺以外の誰かにも
こんな風に伝えられていたらと不安になる。
その意味を込めて、
「そんなの俺なんかに教えて大丈夫ですか」
と聞けば、世話焼きな店員さんが
「やだ、是枝君にしか教えないわよ!」
と肩を強過ぎる力で叩いてきた。
どうやら俺の気持ちは、露呈しまくっているらしい。
“はい“
“あの、今月も無事に入荷されました。“
“ありがとうございます。取りに伺います。“
たった、それだけの会話をかれこれ数ヶ月続けている。
好きな作家が短期で連載している小説を目当てに買っていた文藝春秋だが、正直、その連載は彼女に初めて会った時に発売される予定だった号で最終回を迎えた。
それでもなお、入荷が遅れようが遅れまいが、律儀にしっかりと毎月連絡をくれるあの優しくて可愛い声が聞きたくて、未だに「もう連絡は要らない」と、本当のことを言えないでいる。
入荷の知らせを受けたら当然、こうして書籍部に来ることになるが、業務連絡の電話の中で、彼女に直接「富永さんはいつ働かれてますか?」なんて聞けるはずも無い。
だから、彼女が働いてることを心のどこかで期待しながら、書籍部に向かうのを繰り返していたら、いつの間にか周囲の人に俺のぐだぐだな作戦がバレている。
むしろ何故、本人には
バレていないのか不思議になってきた。
「……"明日の午後"、取りに伺います。」
「はーい!千歳ちゃんには言わないから安心してね!」
結局何も買わずに去る俺を、楽しそうな声のまま見送る店員さんに苦く笑うしかなかった。
こんなこと、ずっとは続けていられない。