エセ・ストラテジストは、奔走する
「‥‥雪道、慣れてるんじゃなかったの。」
「いや、い、今のは、
是枝君が変なこと言うから…、」
変なことを言った覚えはない。
ここから先のスマートな進め方が、
本当に分からない。
でも、そのまま彼女を抱きしめる腕に
力をこめる権利が、俺には無いから。
「冗談だよ。咄嗟にごめん。」
本心を隠すように謝って、曖昧に濁した。
彼女への拘束を解いて、距離を取りつつまた歩き出すと、隣からいつまでも足音が聞こえてこない。
不思議に思って立ち止まって、ふと振り返る。
すると、俯きがちにちょっと眉間に皺を寄せて彼女が棒立ちしていた。
「どうした」と声をかけようとした言葉は、こちらに真っすぐ向けられた透き通る眼差しに飲み込まれる。
「是枝くん。私と、付き合ってもらえませんか。」
そうして届いた言葉を聞いて、
絶対的に俺は間抜けな顔をしていたと思う。
「理由が無くても、手を繋いだり、
…私のこと、だ、抱きしめてくれませんか。」
___そういうポジションに、なりたいです。
辿々しい小さな声で語られた言葉を反芻したら、確実に脈が速まっていく。
また少しずつ舞い始めた雪の中で、それらが消えたりしないように、拾いこぼしたりしないように。
ゆっくり近づいて、
赤みを帯び過ぎた彼女の頬にそっと指で触れた。
極度の緊張状態だったのか、潤んでいる瞳のままこちらを見つめる彼女に「抱きしめても、いいの。」と尋ねる声がひどく掠れてしまう。
勇気を使い果たしたらしい彼女が、言葉無く、でも確かにこくりと頷いてくれたのを確認して、後頭部にそっと手を回して、そのまま、恐る恐る抱きしめた。
お互い厚手の上着を着ているし、その抱き心地が良いのか悪いのか、もはや考える余裕も無かったけど。
照れを隠すような笑い声で「なんか、もこもこする。」と言いながら、遠慮がちに背中にまわった腕が、嬉しくて愛しかった。
《そろそろ彼女出来た?》
《うん》
《え!?!?!?!?雪国の儚い美女!?》
《おい、なんでここで既読無視!?》
《茅人くん!?!?》
《うるさい。》
銀世界がよく馴染むこの街で、
それに全くそぐわない赤色が差した顔で
花みたいに笑う可愛い子だと。
誰にも、
千歳にさえ、うまく伝えられたことが無い。