エセ・ストラテジストは、奔走する
そうして始まった交際は、順調だったと思う。
日々を重ねていったら、良いところも悪いところも含めて勿論当然、いろんな表情が見えてくる。
料理が苦手なところ、
文学部なのに活字を読むと
そのままよく寝てしまうところ、
キスする時、何故か時々
目を閉じようとせずこっちを困らせて笑うところ、
でもその全てが愛しいと思えるくらいには、
千歳が好きだったから。
"茅人は、なんでこの大学に来たの?"
"好きな本の著者がここの臨時講師やってて会いたかったから。"
"お手本のような理由…驚きました…
私は家から通えるから、だけだったけど
それで茅人に会えて、神様に感謝しないとなあ。"
"…よく照れずに言えんね。"
千歳の直球を受け止めて何かを紡ぐのは俺にはいつも難儀で、誤魔化すような答え方だけが上手くなった。
取るに足りない理由で此処に来たけど、
千歳に出会えたことが、どう考えたって1番大きい。
それをいつも思っていた。
思っていたからこそ、余計にどんどん臆病になった。
《お前、インターンとか行くの?》
《何社か申し込んで、予定してる。》
《え、もう合格してんの?東京の企業?》
《まあ。》
《さすがだなあ。千歳ちゃんは?》
《千歳って呼ぶな。》
《独占欲こわ》
《千歳が、何?》
《お前さ。これからどうすんの。》
”これからどうすんの。”
いつも軽い真嶋のメッセージの中で、
最後の一文は異彩を放って、重く突き刺さる。
この街に来た時、大学生活は新しい場所で過ごしてみるのも良いかもしれない、そう思った。
"就職でまた東京へ戻ってくる"
その気持ちに揺らぎが生じるとは、
思ってもいなかった。
千歳と日々を過ごすたびに、
不安は確実に芽生え始めていた。
千歳は今までの人生をずっと、此処で生きてきて。
東京は、修学旅行を含めて数回しか行ったことが無いし、都会は人が多くて目がまわったと笑いながら話していた彼女に、迫りくる進路の選択の中で「上京」はきっとあり得ない。
この土地付近の企業研究も勿論したけど、
圧倒的に東京とは雇用数が違う。
それに。
東京の名の知れた企業に就職できて、
収入をできる限り早く安定させられたら。
____不明瞭で頼りない「未来」を
千歳が、少しは信じる材料になるだろうか。