エセ・ストラテジストは、奔走する
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違和感は、最初からあった。
スマホの画面を見て、
《今日は、美都と就活セミナーに行ってくる》
疲弊したウサギのスタンプと共に送られてきた千歳からのメッセージに、がんばれと返事をして。
初めて見る一軒家の前で、深く呼吸をした。
当然、何も事前に連絡はしていない。
その手段もなかったし、ここが分かったのだって、鈍感な千歳に「実家どの辺?」と地図アプリのストリートビューを使って直球で聞いたら、「最近の地図はすごいね。」と感動しつつ教えてくれたからだ。
待ち伏せするのは不審過ぎるし、
かといって押しかけて良いものか。
インターフォンの前で暫し逡巡していると、
「…どちら様ですか?」
背後から、スーパーの袋を抱えた女性が、いつも近くで見つめてきたのとそっくりの瞳を丸くして立っていた。
名前を名乗ったら、少し驚いた表情の後、全てを察したように「娘がお世話になっています」と、軽く眉尻が下がる。
ここ最近、"抱えてきた違和感"を正直にぶつけると、彼女は取り繕うことなく、全てを打ち明けてくれた。
「…あの子はきっと、
就活はうまくいかないと思います。
貴方のように前々から東京の企業に向けて
準備してきたわけでもない。
付け焼刃で、進路はそんな簡単には拓けない。」
千歳によく似た彼女は、
声は優しいままに、厳しい現実を告げる。
「…それでも、千歳はなんとしても
東京に行こうとしてる。
主人が突き付けた物件の条件は、相当厳しいものです。是枝さんが感じた違和感はその通りです。
東京のことを良くご存知なら、分かるでしょう。
それなりの収入が無ければ、
こんな条件下で、1人でなんて生活していけない。」
言葉は、出ない。
千歳は俺に何も相談はしないが、この間見ていた物件サイトの検索条件もブックマークも、あまりに"俺が思っていた相場"とは違うかった。
「上京するのを諦めさせるための、条件です。
…是枝さん。私は、まだまだ若い貴方に「娘のための覚悟」を迫るつもりはありません。
娘が大事にしてきた恋愛を、応援したい気持ちだってもちろんあるけど。
私は貴方を信頼できるほど貴方のことを知らない。」