エセ・ストラテジストは、奔走する




「一度じゃなくて、俺は一生かけて
伝えていかないと、釣り合いが取れないです。」


そのくらい、俺ばかりが千歳から貰ってきた。

そういう気持ちでやっと言葉を吐き出すと、
千歳によく似た笑い声が鼓膜を揺らす。



そして。

"やっぱり、軍資金は一度返してもらおうかな。"


俺は先日、お金の目処がたったと、仕事も転職するつもりで、落ち着いたら挨拶にいきたいと、そういう趣旨のメールをこの人へ送っていた。


返すつもりで貯めてきたお金だ。

勿論です、と返事をしようとしたら、


"今度は。

___貴方たち2人に、結婚祝いとして改めて贈るわ。"


そう愉快に告げられ、
敵わないなと、俺も少しだけやっと表情が緩む。




3年前、千歳と一緒に上京する時。

見送ってくれたこの人は、「よろしくね」と、俺にだけ聞こえるように小さく言って笑った。


「あの人、"茅人君がイケメン"しか最後まで言わなかったけど、娘と離れるの寂しくないのかな。」

新幹線に乗った後、千歳は不満げだったけど、
でも、出発する直前は窓の方を見ようとしなくて。

きっと顔を見たら泣いてしまうからだと分かって、
似たもの親子だなと思ったことを覚えている。



そうして辿り着いた、東京駅の丸の内駅舎を見た時。

「レンガだ!!」と謎の感想を吐いて笑う千歳を見て、絶対に大事にするって誓ったのに。




『“あの時“、綺麗な思い出にできなくてごめんね。
ずっと長い間、縛ってごめんね』

辛い言葉を口にさせたことを、ちゃんと謝りたい。



『…私のこと、だ、抱きしめてくれませんか。』

千歳。

俺はお前を抱きしめるのに
理由が必要な頃の自分には、もう戻れない。





"今日はもう遅くなるから明日、帰らせるわ。
心配かけてごめんなさいね。"


そう言ってくれた千歳のお母さんに、

「俺が明日、迎えに行きます」と告げた。

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