エセ・ストラテジストは、奔走する
『……練習してくれんの?』
『え?』
『料理。』
『…そりゃあ、勿論。』
これから一緒に暮らすことになったとして
毎日鍋料理、と言うわけにもいかない。
『まずは、味噌汁で胃袋掴む?』
『……面白がってるね。』
私のかつての作戦を掘り返されて、非難の色を表情に浮かべてそう伝えたら、無表情なのに纏う雰囲気は柔らかい。
そのまま私の後頭部にゆっくり大きな手が回って、抱きしめられ、優しくキスが落とされる。
『…じゃあ、明日はアウトレット行くか。』
『うん。』
何度か触れ合った唇を離した彼は、
至近距離でそう提案してそのまま私をベッドに誘う。
向かい合う体勢になって、彼が私の腰を引き寄せてぴったりと距離が埋まれば、狭いシングルベッドでもちゃんと2人で眠りにつける。
『茅人、』
『ん?』
『おやすみ。』
『うん、おやすみ。』
そう応えて、おでこにキスを一つ落とした彼が私を抱きしめる腕に力を込める。
その安心する温度の中で、私も瞳を閉じた。
______
「……は?私は今、惚気を聞かされたわけ?」
「いや、そうじゃなくて…、」
茅人は優しい。
それはもうずっと前からそうだったけど、あの日以来、口数の多くない彼がちゃんと言葉でも気持ちを示してくれるのを実感して、愛しさはより募る。
__でも。
"飽きられたのかと、思った。"
"そんな風に思わせてるのも最悪だ。"
私が雁字搦めにした想いの末に吐き出した言葉は、
多分、茅人を傷つけたままな気がする。