エセ・ストラテジストは、奔走する
「……なるほど?それで今、
分かりやすく、す〜んごい大事にされてるのね。」
「私が、悪いね。」
「(…なんか彼氏のヘタレさ、
既視感しか無いんだけど。)」
「…世間一般は、わからないけど。私はその、」
「そりゃあ、セックスしたい時もあるわよね。」
「………、はしたない従姉妹ですみません。」
「はあ?女だってハレンチになる時があって
何がダメなわけ?
しかも彼氏相手に。上等すぎるでしょ。」
再び楽しげにワインを一口飲んだ亜子ちゃんは
「なんかこのセリフも既視感しか無いわ。」
と、過去の発言を振り返って笑う。
肌を重ねることだけが全てじゃ無い。
想いを言葉にして伝えあう大切さも、
ちゃんと知ってる。
繋ぎ止めるとか、
怖さから逃げるための“手段“だとは、もう思わない。
___でもそれを茅人に伝えるのは、
凄くハードルが高い。
「もー、しょうが無いわね。」
「…へ?」
視線を落としたまま口を噤んでいた私に
投げられた言葉。
顔を上げれば、やれやれと溜息を吐いた亜子ちゃんが
「そういう時の作戦なんか、数個しか無いでしょ。」
と言いながら、おつまみのピクルスを取り分けて私に手渡す。
「…作戦…?」
何というか、あのお調子者の男によく聞いてきた単語だ。
愉快に微笑む亜子ちゃんは綺麗なピンク色のネイルが乗った右手指を3本、上に立ててこちらへ示す。
嫌な予感が、再来している。