エセ・ストラテジストは、奔走する
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「おかえり。」
「うん、ただいま。」
週末、玄関先で出迎えると、1週間の疲労が表情には見えたけれど靴を脱ぎながら目元をふ、と緩める茅人に釣られて私も破顔する。
「お風呂、沸いてるよ。」
「ありがと。」
ジャケットを脱いで、そのままお風呂場へ向かう彼を見送って一つ静かに呼吸を落としつつ、我が親戚1の女王様である亜子ちゃんとの会話が頭を巡る。
『1つ目、ムード作り。』
『え、あの狭い部屋でどうやって…?』
『なんか、電気とか消せば良いんじゃない。
あと、ちっちゃい小洒落たランプでも買いなさいよ。
知らないけど。』
『……、』
初っ端から理世に負けず劣らずの雑クオリティだ。
『2つ目、勝負下着。まあこれは当たり前だわ。』
『……しょうぶ…』
『何なら一緒に選ぶけど?』
『良いです、大丈夫です。』
なんだつまんない、そう口を尖らせた亜子ちゃんは
作戦を聞く度に私の顔が歪みまくっているのは、まるで無視だった。
『3つ目は、もう決まってるから。』
『え、何が?』
『押し倒す。それ以外ある?』
『……頭痛がしてきました。』
『あんたね、今更純情ぶってんじゃ無いわ。
ハレンチなら根性見せなさいよ。』
『……』
何だろう、言葉にはやけに説得力あるけど、この理論は正解なのだろうか。
なかなかにハードルの高い作戦を示した女王は、
『亜子ちゃんもこの作戦、使ったことあるの?』
『………無いわよ。私はいつもストレートにいく。』
『なんか沈黙無かった?』
『私のことは良いの。とりあえずこの3つね。』
ふ、と艶やかに笑って、まあ頑張って、とどこまで本気なのかよくわからない声色で微笑んだ。