先生がいてくれるなら③【完】

「藤野も何か歌え! 俺らとっくに何周も歌ったから、喉ガラガラ! 待っててやったんだから、歌えー!」

「……倉林、お前、酒飲んでねーだろうな?」


やけにハイになってるから、思わず飲酒を疑う。


まさか教師が同席すると分かってる場所で、しかも制服を着てるのにそんな暴挙には出ないとは思うが……。


そう思いながらテーブルに置かれた飲み物を見渡したが、カクテルなんかはジュースと見た目はさほど違わない、見ただけでは分かるはずもなかった。


「先生、大丈夫ですよ、飲んでませんから」


立花が眉尻を下げながらそう言うので、俺はホッと胸をなで下ろす。


……しかし、だったら倉林のこの荒れようは一体、どう言うことだ?


俺が首を傾げると、立花の向こう側に座っていた滝川が「最後の悪あがきです」と苦笑いした。


「悪あがき?」

「先生と明莉のこと、認めたくないけど、認めざるを得ないから……」

「……」


今日のこの場を取り仕切っているのは、倉林なのだろう。


いつの間にこのメンバーのしきり役になったのか、と思ったものだが、どうやらヤツにも色々思うところが有りそうだ。


「おいこら、藤野、歌えー! 一曲ぐらい歌え~!」

「ちょっと倉林くん! 先生困ってるし!」


倉林と滝川は案外仲が良いな、このまま付き合えばいいのに。


そうすれば、俺の懸案事項がひとつ減る。


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